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阿部技術士・労働安全コンサルタント事務所は、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。

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1)その後の人間行動に起因する事故の未然防止

私は2001年10月に(社)日本品質管理学会に入会しました。製造現場で日々発生するトラブルなどの未然防止のヒントでも得られないかというのが入会の動機でした。私は徳島県技術士会報において「失敗に学ぶ(2001年)」、「失敗を活かす(2002年)」、「失敗を防ぐ(2003年)」というテーマで失敗(トラブル)の未然防止について論述したこともあり、失敗の未然防止は重要なテーマでありました。そして、10年の時を経て、昨年(2011年)、その後の人間行動に起因する事故の未然防止について振り返ってみました。以下は「その後の人間行動に起因する事故の未然防止」から抜粋した内容です。

1.組織事故
 James Reasonは「ヒューマンエラーは心理学のみの対象として捉えるのではなく、背景にある組織的要因まで含めて考える必要がある」と主張している。
 James Reason は英国マンチェスター大学教授で、多くの著書を上梓している。その内の幾つかを紹介する。
・Human Errorではヒューマンエラーを起す原因を外部要因と内部要因に分けて分析し、認知科学的に追究していく方法について説明している 。
・Managing the Risks of Organizational Accidentsでは組織内部に潜む欠陥が出現する前にその兆候を把握し、対処するための実践的ないくつかのアプローチの方法を示している。
・Managing Maintenance Errorではメンテナンスエラーが引き起こす事故を未然に防ぐエラーマネジメントの原則や手法をヒューマンファクターの観点から説明し、リスクを低減するためのマネージメント手法を示している。
・The Human Contribution (Unsafe Acts, Accidents and Heroic Recoveries)では人間を「エラーの潜在的要因」とみなすのではなく、人間を「危機を救うヒーロー」としてみることにより、レジリエンスの高い安全な組織がどのようなものかについて説明している。
 組織事故については最終報告書「人間行動に起因する事故・品質のトラブルの未然防止のための方法論の体系化」の中でも未然防止の基本的な考え方として引用されている。特に、有名なスイスチーズモデルに関する内容について以下に抜粋した。
 James Reasonは組織事故を理解するための三つの共通概念として「潜在的な危険」、「防護」、「損害」を挙げ、特に、深層防護に潜む問題に着目している。深層防護とは安全のために多重に重なっている防護機能のことである。 なぜ、これらの深層防護が破られて事故が起きるのか。Reasonは三つの観点から考察している。始めに生産性と安全性のダイナミクスの観点から安全性の軽視が起こるメカニズムを指摘、次に、深層防護が破られる状況をスイスチーズモデルで表現、潜在的原因に着目することの重要性を主張している。 最後に、原因を人的要因、技術要因、組織要因の三階層に遡って考えるべきことを示している。 ここでは特にスイスチーズモデルに含まれている二つの主張を説明する。

 第一に、穴は既に空いた状態になっているもの(潜在的原因)があり、多重防護のうちの幾つかは既に直線状に貫通した状態にあるという。最期の1枚が即発的エラーとして潜り抜けたとき、事故は発生する。この最後のエラーが、一見、根本原因と勘違いしやすい人間エラーのことである。 第二に、潜在的に空いている穴は、一定の位置に留まるのではなく、移動や発生・消滅を繰り返すという。問題は穴が開くこと自体ではなく、潜在的原因となる穴が放置されていることであり、それらを如何に発見し塞ぐかが事故の未然防止に必要となる。組織事故として解析することの重要性は、即発的エラーだけでなく、これら潜在的原因も同時に明らかにし、対策をとるところにあるといえる。潜在的な原因の多くが組織的な要因だからである。

2.(社)日本品質管理学会の主な出来事(2000〜2010年)
 品質管理学会の直近10年の主な出来事を抽出した。各項目の詳細については品質管理学会の歩みとして学会誌(品質Vol41,3.2011)にまとめられている。
1)品質管理推進功労賞の創設(2001年1月)
 産業界で品質管理に携わった優秀かつ有能な人材を顕彰するため、創設された。
2)公募研究会「複合技術領域における人間行動研究」(2000年2月)
3)ANQ(アジア・クオリティ・ネットワーク)(2002年、第1回の国際会議開催)
 2011年現在、アジアの国/地域を代表する20の会員組織等が参加している。アジアにおける品質管理団体のネットワークである。
4)部会制度創設(2005年)
 ある特定分野の固有な問題を深く議論する場合に部会内規に従って部会を設置できる。現在以下の部会が設置されている。
 ・ソフトウェア部会(2005年3月) 
   ソフトウェア品質の確保を目指して創設されたものである。
 ・QMS有効性及び審査研究部会(2005年6月) 
   第三者審査制度の信頼性を考慮した審査のあり方を研究するための部会として創設された。
   QMSとはQuality Management System(品質マネジメントシステム)を意味する。
 ・医療の質・安全部会(2005年12月)
  近年社会的な課題となってきた医療の質及び安全の向上を目指して創設されたものである。
5)インカレゼミ(2005年)
 品質管理に関連する各大学の学生たちが主体的に企画運営する交流会である。
6)品質管理検定
 4段階の級がある。昨年の10回までの延べ受験申し込み数は21万人に達し、合格者総数は約13万人に達している。 7)JSQC選書の発行(2008年9月)
 専門家でない方に対して高度な情報を平易に説明した書籍を発行することを目的としている。現在までに16巻が発行済である。 JSQCはJapanese Society for Quality Control(日本品質管理学会)を意味する。
8)新版「品質保証ガイドブック」の発行   
 旧版は1974年に発行されている。品質保証の考え方が理解され実践されていれば発生しなかったと思われるトラブルの防止を目指して発行された。
9)横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹連合)(2003年)
 2011年7月現在、40の学、協会が加入している。
  最終報告書「人間行動に起因する事故・トラブルの未然防止のための方法論の体系化」は専門家のレベルアップと同時に社会全体で品質管理の意識向上に取り組み、実践を通じて産業界へ貢献しようとするものである。品質管理学会に限らず、関連の学協会の前向きの努力によってもトラブルの未然防止は実現できていない。技術的に未知なものであれば止むを得ない面もあるが、不注意や、ポカミスのようなものが依然としてあるのは何故だろうか。また、明らかなコンプライアンス違反に属するものもあるのは何故なのか。
 失敗学の提唱者である畑村洋太郎先生は失敗の原因を次のように規定している。
@ 個人に起因するもの〜 無知、不注意、手順の不遵守、誤判断、調査・検討の不足
A 組織に起因するもの〜 企画不良、価値観不良・組織運営不良
B だれの責任でもないもの〜 未知
C 個人・組織のいずれの責任にもできないもの〜 環境変化への対応不良
 特に、個人に起因するものでは手順の不遵守、組織に起因するものとしては価値観不良が社会的には大きな問題(コンプライアンス違反)として注目される。
 ここで、手順の不遵守とは「決められた手順や規則を守らなかったために起こす失敗」のことである。また、価値観不良とは「組織内のルールを重視し、自企業の利益を優先し過ぎて、公のルールを守らなかったために起こす失敗」のことである。悪しき組織文化が原因で引き起こされたと思われる失敗には、例えば、雪印乳業、日本ハム、あるいは三菱自動車などの失敗がある。

3.10年一昔(主な出来事)
2000年から2011年までの主な出来事を振り返る。随分昔のことと思ったことが最近だったり、新しいと思ったことが古かったり、記憶の曖昧さに愕然とするが、記憶と記録に残る多くの事件、事故が起きている。
(主な出来事)
2000年 ・営団日比谷線脱線衝突事故(3月8日)・エールフランスのコンコルド機墜落(パリ、7月25日)・雪印集団中毒事件。
2001年 ・明石花火大会歩道橋事故(7月21日)・雪印食品、牛肉偽装事件。
2003年 ・スペースシャトル・コロンビア号地球へ帰還の際、空中分解(2月1日)
2004年 ・JR福知山線脱線事故、死者107人、負傷者555人(4月25日) ・構造計算書偽造問題発覚(11月17日)
2007年 ・不二家で期限切れ原材料の使用が発覚。以降、食品メーカー等の偽装が相次いで発覚(1月10日)。   2008年 ・日本国内で中国製ギョーザによる中毒が相次いで発生(1月)。
2010年 ・探査機はやぶさが小惑星イトカワから地球へ帰還(6月13日)・尖閣諸島中国漁船衝突事件(9月7日)。2011年 ・東日本大震災、M9.0。三陸海岸及び福島県の海岸部を中心に10m以上の津波による被害。この地震・津波により福島第一原子力発電所事故も発生(3月11日)。
 これらの多くは、既に、報告書、著作等で詳しい分析がなされているが、これらの事件、事故は多かれ少なかれ人間行動に起因していると考えられる。
 それでは体系化された人間行動に起因する事故・品質のトラブルの未然防止のための方法論はこれらの事件、事故に対して無力だったのだろうか。  
 日本の「経済力」が落ち、「生活水準」が低下したと感じて「科学技術力の水準」まで低下したと感じてはいないだろうか。そのため、日々の仕事においても以前のような創意工夫で前向きの気持ちが鈍り、トラブルを起してしまうようなことはないであろうか。確かに経済力が落ち目になると製造現場では設備投資が抑えられ品質向上のための行動が鈍ることは考えられる。 
 しかし、長年培い蓄積してきた技術力までが大きく落ち込むことは考えられない。金が無ければ知恵を出して窮地を脱してきたはずである。経済力がどうであろうと人間行動に起因する事故には立ち向かわなければならないし、そのようにしてきたはずである。
 それでも改善できないのは経済力以外の問題があるはずである。それらについては更なる原因分析と対策への取り組みが必要と考える。少なくとも前項の手順の不遵守や価値観不良で述べた「ルールを守ること」で防ぐことができるトラブルは発生させてはいけない。

 以上が「その後の人間行動に起因する事故の未然防止」からの抜粋です。このようにいろいろなトラブル、事故が発生しています。そのほとんどが人間行動に起因するものと考えられます。原因が究明され、再発防止対策が講じられているものがある反面、新たな原因による新たなトラブルが後を絶たないのが現実ではないでしょうか。これらについては対策が不完全であったと反省し、新たに対応すればよいと思います。対策が的確になればトラブルは時間と共に減少するでしょう。
 しかし、この世の中には新しいものが次から次へと生み出されています。そこには新たなトラブルが潜んでいる可能性があります。これらを想定し、未然防止のための行動をとらなければなりません。このときに何を手段に対応するのでしょうか。品質管理や信頼性工学の手法をよりどころにするほか方法はないと考えます。
 自然災害が発生したとき人工物が自然のエネルギーに耐え切れず大きな災害となることがあります。2011年 3月11日に発生した東日本大震災による災害もそれです。英知を結集して設計製作していたはずの原子力発電所が一瞬にして破壊されてしまいました。想定外の規模であったということだけで片付けられるでしょうか。
 ところで、事故・品質トラブルの未然防止や品質の向上は「人質(介在する人間の質)」の向上無くして実現できないと考えます。「人質」は究極的にはその人の倫理観や道徳観であり、各人の自覚に待つほかないのですが、「人質」の向上には安心して生きていける環境が必要になると考えます。安心のためにはリスクを可能な限りゼロに近付けた安全の確保が不可欠と考えます。
 当事務所では、ものづくりの現場の皆様の声を真摯に受け止め、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。
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