1.組織事故
James Reasonは「ヒューマンエラーは心理学のみの対象として捉えるのではなく、背景にある組織的要因まで含めて考える必要がある」と主張している。
James Reason は英国マンチェスター大学教授で、多くの著書を上梓している。その内の幾つかを紹介する。
・Human Errorではヒューマンエラーを起す原因を外部要因と内部要因に分けて分析し、認知科学的に追究していく方法について説明している 。
・Managing the Risks of Organizational Accidentsでは組織内部に潜む欠陥が出現する前にその兆候を把握し、対処するための実践的ないくつかのアプローチの方法を示している。
・Managing Maintenance Errorではメンテナンスエラーが引き起こす事故を未然に防ぐエラーマネジメントの原則や手法をヒューマンファクターの観点から説明し、リスクを低減するためのマネージメント手法を示している。
・The Human Contribution (Unsafe Acts, Accidents and Heroic Recoveries)では人間を「エラーの潜在的要因」とみなすのではなく、人間を「危機を救うヒーロー」としてみることにより、レジリエンスの高い安全な組織がどのようなものかについて説明している。
組織事故については最終報告書「人間行動に起因する事故・品質のトラブルの未然防止のための方法論の体系化」の中でも未然防止の基本的な考え方として引用されている。特に、有名なスイスチーズモデルに関する内容について以下に抜粋した。
James Reasonは組織事故を理解するための三つの共通概念として「潜在的な危険」、「防護」、「損害」を挙げ、特に、深層防護に潜む問題に着目している。深層防護とは安全のために多重に重なっている防護機能のことである。
なぜ、これらの深層防護が破られて事故が起きるのか。Reasonは三つの観点から考察している。始めに生産性と安全性のダイナミクスの観点から安全性の軽視が起こるメカニズムを指摘、次に、深層防護が破られる状況をスイスチーズモデルで表現、潜在的原因に着目することの重要性を主張している。
最後に、原因を人的要因、技術要因、組織要因の三階層に遡って考えるべきことを示している。 ここでは特にスイスチーズモデルに含まれている二つの主張を説明する。