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阿部技術士・労働安全コンサルタント事務所は、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。

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安全情報メモ29Safety information

29)リスクアセスメント(リスクの見積り)

 厚生労働省から発出されている法令、解説などを参考にしながら、リスクアセスメントのリスクの見積りについて紹介します。

 平成17年の労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)の改正により、同法に第28条の2が追加(以下の(参考)に記載)されました。
参考)
 
第28条の2 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、  又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく  命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなけ  ればならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障  害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事  業者に限る。
 2 厚生労働大臣は、前条第1項及び第3項に定めるもののほか、前項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図  るために指針を公表するものとする。

 そして、平成18年3月10日、この第28条の2第2項の規定に基づき、危険性又は有害性等の調査等に関する指針を次のとおり公表しています。
1 名称 危険性又は有害性等の調査等に関する指針
2 趣旨 本指針は、労働安全衛生法第28条の2第1項の規定に基づく措置の基本的な考え方及び実施事項について定めたものであり、その適切かつ有効な実施を図ることにより、事業者による自主的な安全衛生活動への取組を促進することを目的とするものである。
3 内容の閲覧 内容は、厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課及び都道府県労働局労働基準部安全主務課において閲覧に供する。
4 その他 本指針は、平成18年4月1日から適用する。

 
このように平成18年4月から事業者には新たに「危険性又は有害性の特定、リスクの見積りおよびその結果に基づくリスク低減措置の実施」が法令上の努力義務とされています。

 近年、労働災害の原因が多様化し、その把握が困難になっています。これは生産工程に導入された機械設備などが高度化され、複雑になってきたことが原因と思われます。このような状況において事業者は事業場の安全衛生水準の向上を図らなければなりません。即ち、リスクアセスメントの実施は”安全第一(Safety first)”の企業文化を醸成し、事業場の安全衛生水準を向上させるために課せられた法令上の努力義務なのです。

 リスクアセスメントについては厚生労働省から「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」を基本指針として、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」、「機械の包括的な安全基準に関する指針」が基本指針に基づく詳細指針として、それぞれ公表されています。いずれの指針においても、リスクアセスメントの実施手順等の基本は共通していて、図1に示すとおりです。

 ところで、「危険性又は有害性」とは労働者に負傷又は疾病を生じさせる潜在的な根源であり、ISO、ILO等においては「ハザード(hazard)」で表現されています。図2は危険性・有害性(ハザード)とリスクの違いを簡潔に表現したものです。トラは危険性を有しているためハザードにあたります。しかし、周辺には人がいないので、トラに襲われる危険性はありません。即ち、ハザードはあるが、リスクはない状態です。この状態のまま、人が接近するとリスクは高まってきます。接近するのであれば、リスク低減措置を講ずる必要があります。


 
◆本指針の「9 リスクの見積り」には次のように記載されています。
(1)事業者は、リスク低減の優先度を決定するため、次に掲げる方法等により、危険性又は有害性により発生するおそれのある負傷又は疾病の重篤度及びそれらの発生の可能性の度合をそれぞれ考慮して、リスクを見積もるものとする。
ただし、化学物質等による疾病については、化学物質等の有害性の度合及びばく露の量をそれぞれ考慮して見積もることができる。
ア 負傷又は疾病の重篤度とそれらが発生する可能性の度合を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじめ重篤度及び可能性の度合に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを見積もる方法。
イ 負傷又は疾病の発生する可能性と重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを加算又は乗算等してリスクを見積もる方法。
ウ 負傷又は疾病の重篤度及びそれらが発生する可能性等を段階的に分岐していくことによりリスクを見積もる方法。
(2)事業者は、(1)の見積りに当たり、次に掲げる事項に留意するものとする。
ア 予想される負傷又は疾病の対象者及び内容を明確に予測すること。
イ 過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もること。
ウ 負傷又は疾病の重篤度は、負傷や疾病等の種類にかかわらず、共通の尺度を使うことが望ましいことから、基本的に負傷又は疾病による休業日数等を尺度として使用すること。
エ 有害性が立証されていない場合でも、一定の根拠がある場合は、その根拠に基づき、有害性が存在すると仮定して見積もるよう努めること。
(3)事業者は、(1)の見積りを、事業場の機械設備、作業等の特性に応じ、次に掲げる負傷又は疾病の類型ごとに行うものとする。
ア はさまれ、墜落等の物理的な作用によるもの
イ 爆発、火災等の化学物質の物理的効果によるもの
ウ 中毒等の化学物質等の有害性によるもの
エ 振動障害等の物理因子の有害性によるもの
 また、その際、次に掲げる事項を考慮すること。
ア 安全装置の設置、立入禁止措置その他の労働災害防止のための機能または方策(以下「安全機能等」という。)の信頼性及び維持能力
イ 安全機能等を無効化する又は無視する可能性
ウ 作業手順の逸脱、操作ミスその他の予見可能な意図的・非意図的な誤使用又は危険行動の可能性

◇リスクの見積りは優先度を定めるために行うものであるので、必ずしも数値化する必要はなく、相対的な分類でも差支えありません。
◇(1)の「負傷又は疾病」には、それらによる死亡も含まれています。
◇ISO等においては、
 「危険性又は有害性により労働者に生ずるおそれのある負傷又は疾病」とは「危害」(harm)、
 「負傷又は疾病の程度」とは「危害のひどさ」(severity of harm)で表現されているものです。
◇(1)のアからウまでに掲げる方法は代表的な手法の例であり、(1)の柱書きに定める事項を満たしている限り、他の手法によっても差し支えありません。
それぞれの手法の記載例を図3から図5に示しています。

当事務所では人間行動に起因する事故・品質トラブルの未然防止をお手伝いします。また、ものづくりの現場の皆様の声を真摯に受け止め、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。   (2013.9.5)

図1.リスクアセスメントの 
基本的な実施手順

(出典:安全の指標
 (中央労働災害防止協会編))

図2.ハザードとリスクの違い
(出典:リスクアセスメント担当者養成研修テキスト(日本労働安全衛生コンサルタント会)

図3.リスクの見積り・マトリクスを用いた方法
(出典:危険性又は有害性等の調査等に関する指針・同解説(厚生労働省))

図4.リスクの見積り・数値化による方法
(出典:危険性又は有害性等の調査等に関する指針・同解説(厚生労働省))

図5.リスクの見積り・枝分かれ図を用いた方法
(出典:危険性又は有害性等の調査等に関する指針・同解説(厚生労働省))

                                           

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