印刷会社の従業員らに胆管がんの発症が相次いでいます。この問題で、厚生労働省は、労災申請があった大阪市の校正印刷会社の従業員ら16人全員について、業務と発症に因果関係があるとして、労災認定する方針を固めたことが報道されています。以下はその概要です。
胆管がんの労災認定は初めてです。正確な原因特定には至っていないのですが、同一の職場で多くの若い従業員が、高齢者に多いとされる胆管がんを発症している特異性を重視したとみられます。3月中旬に開く専門家の検討会で基本的な考えをまとめた上で、順次、労災認定するようです。
<胆管がん>肝臓でつくられた胆汁を十二指腸に流す胆管にできるがん。独立行政法人国立がん研究センターの
統計によると、胆管がん(胆のうがんも含む)で2010年に死亡した人は1万7585人(男性8440人、
女性9145人)。症状は全身の倦怠感(けんたいかん)や黄疸(おうだん)など。高齢者に多いがん
とされるが、今回の問題では20〜40代でも発症した。印刷会社で使う化学物質など職業に起因する
疑いがあるため、厚生労働省が調査している。
業務と胆管がん発症の因果関係などについては2012年8月から、大学教授らが疫学調査を実施しています。厚労省などが同社の作業場で再現実験をした結果、従業員が化学物質にさらされた程度は、米国産業衛生学術会議の示す平均許容濃度の約3倍から約20倍だった可能性があることが判明しています。労災申請の時効(5年)は死亡した翌日を起算点としていますが、今回のケースは因果関係が判明した時点を起算点とする方向で調整しているようです。
企業に損害賠償責任などを問う場合、時効は現状で二通りあります。
@労働契約関係がある場合(社員など)
時効は10年です。使用者には安全配慮義務があり、それを怠っていたために事故などに遭ったと証明できれば、賠償
につながります。 この場合、時効の起算点は実際に訴えることができた時と考えられています。
例)危険な仕事に対し、上司である監督者に安全を確保するための具体策を求めたのに対策が不十分だったため、
けがや疾病を発症した。
A労働契約関係がない場合(周辺住民など)
時効は3年ですが、問題が起こってから20年以内に訴える必要があります。この場合、企業側に違法行為と故意・過
失があった(不法行為)ことを被害者が証明する必要があります。
職長(監督者)の指導・管理の善し悪しが損害賠償請求事件が提起されたときに使用者が安全配慮義務を尽くしていたか否かの判断に影響を及ぼします。この種の事件に詳しい安西弁護士が監督者の立場について次のとおり述べています。職長(監督者)の役割は極めて重要です。
(1993年労働基準調査会)
安全配慮義務にみる監督者の立場
1)部下の希望といえども安全に関し妥協してはならない。
2)監督者は不安全行動を黙認してはならない。
3)作業に不便だからといって安全施設などの不使用は許されない。
4)監督者はその現場の状況に応じた安全な作業方法をとるように指導しなければならない。
5)監督者は支配下の作業員を教育指導しなければならない。
6)安全指示や注意は徹底させなければならない。 (2013.2.25)