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阿部技術士・労働安全コンサルタント事務所は、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。

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〒771-1330 徳島県板野郡上板町西分字橋北16番地2

安全情報メモ73Safety information

73)リスクアセスメント(三菱マテリアルの事故事例)

 「2014年1月9日午後2時10分ごろ、三重県四日市市の三菱マテリアル(株)の四日市工場第1プラントで爆発があり、同社社員の豊田裕久さんら5人が死亡し、男性作業員ら12人がけがをして病院に運ばれました。この事故は、メンテナンスの一環として「危険物施設」から取り外していた円筒形の「熱交換器」長さ約5m、直径約1m、重さ約5t)の配管内を水洗浄しようとした際に発生した」とマスメディアは一斉に報じました。

 3日後、1月12日の新聞報道(参考:取って置きニュースいろいろ・2014(第1〜4週)(2014.1.25))によると、「洗浄作業中に爆発した熱交換器は2006年1月に使用を開始してから、約8年間一度も洗浄されていなかったとのことで、洗浄作業中、近くに火花が出る恐れのある発電機が置かれていたことも判明。洗浄作業時の安全確保の具体的な規定もなく、三重県警は、ずさんな安全管理体制が爆発事故につながったとみて11日、業務上過失致死容疑で工場事務所などを家宅捜索し、安全管理に関するファイルなど40数点を押収。週明けにも捜査本部を設置する方針を固めており、工場関係者からの事情聴取などを本格化させる」とのことでした。

 2014年6月26日、総務省消防庁は当該事故に関する報道資料を公表しました。   
 報道資料の冒頭には「三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を踏まえ、クロロシランポリマー類等を取り扱う業界団体に留意事項を示すとともに、その他の業界団体等に注意喚起を行いました。」と述べた後、注意喚起の内容が次のように記載されています。なお、これらは、消防庁ホームページ(www.fdma.go.jp)に掲載されています。

   石油コンビナート等における災害防止対策の推進については、「石油コンビナート等における災害防止対策の推進
  について(平成26年5月16日付け総務省消防庁次長・厚生労働省労働基準局長・経済産業省大臣官房商務流通保
  安審議官通知)」により、各団体が取り組む内容をまとめた行動計画を策定すること等を要請しているところです。
   本年1月9日に発生した三重県四日市市の三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故を受け、同社が設置した事故
  調査委員会から6月12日に最終報告書が発表されました。
   また、危険物保安技術協会で開催された「危険物施設の保守・点検時の事故防止に係る検討会」においても、今回
  の事故の分析及び同種事故防止対策の検討が行われ、6月20日に最終報告が取りまとめられたところです。これら
  により、クロロシランポリマー類※)及びその加水分解生成物の危険性や、取り扱う物質の危険性やその反応過程が
  十分に把握されていない場合の問題が明らかになりました。
   今般、今回の事故の直接の原因となった物質に係る留意事項を取りまとめるとともに、非定常作業時等に予期せぬ
  危険な反応等により災害の発生のおそれがある場合の留意事項を取りまとめ、クロロシランポリマー類及びその加水
  分解生成物を取り扱う業界団体に行動計画を策定する際の留意事項として示すとともに、その他の業界団体及び都道
  府県に対して注意喚起を行いました。
    ※)シリコン原子2個以上が結合している分子の化合物、又は、これらが何種類か混在したものの総称。
    【別添】
     ・業界団体宛て要請文(3省連名要請文)
     ・各都道府県消防防災主管部長及び東京消防庁・各指定都市消防長宛て通知
    【参考】
     ・火災の原因調査結果(三菱マテリアル(株)四日市工場爆発事故)


 報道資料の【参考】には火災の原因及び事故の要因が次のようにまとめられています。
  2 火災の状況(3)火災の原因 
   水冷熱交換器内部に付着していたクロロシランポリマー類を加湿窒素で加水分解した際に、爆発感度が高い加水分
   解生成物が生成され、蓋を開放した際の衝撃等により発火し爆発が発生したものと推定される。また、水冷熱交換
   器内部には、大量の加水分解されていないクロロシランポリマー類が残存しており、これらが熱分解し爆発の威力
   を高めたものと推定される。
  3 事故の要因
  (1)クロロシランポリマー類の大量の堆積
    当該水冷熱交換器は供用開始から約8 年間、開放洗浄がされず、内部に大量のクロロシランポリマー類が付着す
    る状態に至ったこと。
  (2)クロロシランポリマー類の処理方法の未確立
    当該事業所における水冷熱交換器の洗浄作業において、発火・着火事故等が頻発している状況にありながら、物
    質の分析等、根本的な対策が検討されず、堆積したクロロシランポリマー類の処理方法が未確立であったこと。

 これらの状況を踏まえ、ここでは通知文に記載されている留意事項について紹介します。留意事項の中には、リスクアセスメントに関する内容が多く含まれています。(赤字及び下線は当事務所で加筆)

  1 クロロシランポリマー類等が堆積する工程がある場合の留意事項
   クロロシランポリマー類は、可燃性ではあるが、爆発威力は小さい。一方、低温での加水分解により生成していた
   クロロシランポリマー類の加水分解生成物の発火・爆発危険性は、クロロシランポリマー類と比較して、摩擦感度
   及び静電気火花感度は低いが、熱感度や打撃感度が高く、爆発威力はきわめて大きいという性状を有していること
   が明らかになった。このため、これらの取扱いに当たっては、以下の措置を講ずることが必要である。
  (1)十分な
リスクアセスメントによる安全対策
    クロロシランポリマー類等の取扱いについては、定常作業、非定常作業のいずれにおいても、構成機器、作業内
    容、発火・爆発等の危険性等を総合的に勘案し、三菱マテリアル(株)四日市工場の爆発火災事故や、別表、1
    の事故事例等も参考とした上で、適切に危険を抽出することにより十分に
リスクアセスメントを行い、実態に
    合った適切な安全対策を講じること。
  (2)設計段階における安全対策
    設計段階における安全対策としては、以下の対策が考えられる。
    ア クロロシランポリマー類等が装置や配管に堆積しにくい設計とすること。
    イ クロロシランポリマー類等が装置や配管に堆積する構造であっても、容易かつ安全に堆積物が除去できる設
      計とすること。
    ウ クロロシランポリマー類等の堆積状況等を計測装置等により客観的に判断できるようにしておくこと。
  (3)非定常作業時の
リスクアセスメント及び対策
    クロロシランポリマー類等が堆積した装置、配管等を開放する等の非定常作業に係る
リスクアセスメントを十
    分に行うとともに、その結果に基づき、特に堆積したクロロシランポリマー類等の危険性及び発生し得るリスク
    に備えた作業手順書を作成すること。
  (4)安全対策の周知・教育
    クロロシランポリマー類等の危険性、
リスクアセスメントの結果、得られた安全対策の内容について、従業者
    への周知・教育を徹底すること。
  (5)ヒヤリハット事例の共有
    クロロシランポリマー類等の事故やヒヤリハット等の事例については、事業者間で積極的に情報共有を行い、

    リスクアセスメント
や従業者教育等に活用すること。
  2 非定常作業時等に予期せぬ危険な反応等により事故の発生のおそれがある場合の留意事項
   クロロシランポリマー類等以外の物質の取扱いにおいても、今回の事故に見られるように、副生成物等の危険性や
   その反応過程が十分に把握されていない場合、当該副生成物を取り扱う非定常作業等に伴うリスクを適切に評価す
   ることができなくなり、事故が発生する可能性がある。この種の事故を防止するため、以下の事項に留意すること
   が必要である。
  (1)反応、精製過程等において未反応物や副生成物等が残渣として付着した装置や配管等を取り扱う作業における
    事故の防止
    ア 残渣を洗浄するための機器の解体・取り外し作業、開放作業等の非定常作業
    イ 活性が残った物質が触媒に付着している状況での、廃棄までの保管作業
     等では、残渣や活性が残った物質の危険性やその反応過程が十分に把握されていない場合、安全対策が不十分
     なものとなり、思わぬ事故が発生するおそれがある。そのため、具体的には、以下のような安全対策や安全管
     理が有効であること。
     @必要に応じて分析等により危険性を調査した上での
リスクアセスメントの実施、及びその結果に基づく安
      全対策の実施
     A作業前ミーティング等における当日の作業計画に関する従業者間での情報共有
     B作業を行う従業者への十分な教育の実施
     C統括的に現場の安全を管理する者による安全管理体制の確保
  (2)ヒヤリハット事例等の分析、共有による事故の防止
    ヒヤリハット事例等を継続的に分析し、発火・爆発等の危険性が疑われる場合、どのような危険性があるのか調
    査し、対策を講じていくことが必要であること。その際、火災・爆発等に関する性状が明確でない物質について
    は、分析を行う、又は専門家の判断を仰ぐ等により確認すること。その危険性及び対策については、協力会社の
    従業者も含め、周知徹底・情報共有を図ることが必要であるが、可能な場合には、関係業界、他社等に幅広く、
    適切かつ積極的に情報提供を行うこと。
  (3)その他
    別表、2の事故事例も参考に、危険な反応等により事故の発生のおそれがある物質を取り扱う場合における危険
    性については、十分な
リスクアセスメントを行い、適切な安全対策を講じること。

 近年、労働災害の原因が多様化し、その把握が困難になっています。これは生産工程に導入された機械設備などが高度化され、複雑になってきたことが原因と思われます。このような状況において事業者は事業場の安全衛生水準の向上を図らなければなりません。
 2006年4月から事業者には新たに「危険性又は有害性の特定、リスクの見積りおよびその結果に基づくリスク低減措置の実施」が法令上の努力義務とされています。即ち、リスクアセスメントの実施は”安全第一(Safety first)”の企業文化を醸成し、事業場の安全衛生水準を向上させるために課せられた法令上の努力義務なのです。三菱マテリアル(株)の八尾社長は謝罪会見の中で「定量的基準を含むマニュアル整備を進める考え」を示されましたが、ずさんな安全管理の代償はあまりにも大きなものになりました。


 当事務所では人間行動に起因する事故・品質トラブルの未然防止をお手伝いします。また、ものづくりの現場の皆様の声を真摯に受け止め、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。  (2014.9.25)
                                           

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