41)材料力学(軸のねじり)
技術情報メモ38では材料力学(力学の基礎知識)、メモ39では材料力学(質量と力)、メモ40では材料力学(応力とひずみ)について紹介しました。ここでは材料力学(軸のねじり)について紹介します。
技術には危険がつきものです。このため、危険源を特定し、可能な限りリスクを減らすことによって、その技術の恩恵を受けることが可能となります。
例えば、自動車の登場は蒸気自動車が1769年、ガソリン自動車が1870年(内燃機関によるものでは1885年にそれぞれ発明したダイムラーとベンツによるものが最初)とされています。航空機は1903年にライト兄弟により初飛行が行われました。また、原子力発電は1951年にアメリカで初めて行われました。原子力発電については世界中で存続の是非が問われていますが、自動車と航空機については無くてはならないものになっています。それ故、今日まで、安全性向上のための技術開発等、不断の努力が続けられているのです。
機械工学はこれらの技術開発・改良に欠くことのできない学問です。特に、材料力学は機械や構造物が安全に運用されるための基礎となる学問です。材料力学の知識なしに設計された機械や構造物は危険源の塊かも知れません。
ここでは、最初に、「軸のねじり」の実際的な例について説明し、その後、ねじりのせん断応力(ねじり応力)、ねじり角、断面二次極モーメントについて紹介します。
図1は原動機、伝動軸、機械の位置関係を示したものです。ねじりを受ける伝動軸は一様な円断面を有しており、両端で、互いに逆方向に作用する駆動トルクと被動(抵抗)トルクを受けた状態で回転します。このため、伝動軸には「ねじり」が作用することになります。
実際の設計では次式(1)~(3)により伝動軸の直径を求めます。なお、SI以外の単位系を用いているので注意してください。
ここで、伝達馬力H(PS:仏馬力=0.7355kW)、回転数N(rpm:回毎分=60s-1)、
ねじりモーメントT(kgf・cm:kgf・cm=0.0980665N・m)、軸径D(cm)としています。
H=T×(2πN/60)×(1/7500)
T=(45×104/2π)×(H/N)=71620×(H/N)ーーーーーーーー(1)
一方、ねじり応力の最大値は次式(2)で求められる(後段で紹介)。
τmax=2T/πR3=16T/πD3=T/Zp ーーーーー(2)
従って、
D=(16T/(π・τmax))1/3
ここで、τmax(最大ねじり応力)=τe(許容応力)とすると
D=71.5×(H/(τe・N))1/3 ーーーー(3)
(3)式で伝動軸の直径が求められます。
図1.軸のねじりの実例
原動機、伝動軸、機械の位置関係を示しています。
図2-1は一端を固定した真直な丸棒の他端に偶力Tが作用した状態を示しています。偶力Tは丸棒の中心軸に垂直な面に作用しており、この際、丸棒はねじられ、断面は平面のまま相互に回転を生じます。この偶力をねじりモーメント、断面に生ずる応力をねじり応力といいます。
ねじり変形では、丸棒は変形しても真直ぐなまま伸びず、その横断面は平面で、軸に垂直なままであること、さらに、軸中心から半径方向に引いた直線は変形後でも直線だと考えることができます。これらの仮定は横断面が円形で軸方向に一様である場合にのみ正しいとされています。
図2-1及び図2-2において、角θは棒の長さℓに対するねじり角とよびます。ねじりにより断面には半径OMに垂直に接線方向にせん断力τが発生します。
せん断ひずみは角度γに等しく、次式で求められます。
γ=MM1/LM=Rθ/ℓ
また、丸棒材料のせん断弾性係数をGとすると、半径Rにおけるせん断応力τは次式で求められます。
τ=Gγ=GRθ/ℓ
一方、断面内のねじり応力が中心に与えるモーメントは外部からのねじりモーメントTとつりあうため次式が得られます。
T=G(θ/ℓ)∫Ar2dA=G(θ/ℓ)Ip
ここで、Ip=∫Ar2dAは断面二次極モーメントとよばれ、断面の形状寸法で決まる定数です。
半径R(直径D)の円断面では次式で求められます。
Ip=πR4/2=πD4/32
ねじりモーメントTとねじり応力τの関係は次式のようになります。
τ=(T/Ip)・r=(2T/πR4)・r=(32T/πD4)・r
また、ねじり応力最大値は外周部r=R=D/2に生じるため、次式で求められます。
τmax=2T/πR3=16T/πD3
複雑な式は忘れても「ねじり応力の最大値は軸径の三乗に反比例」とだけは覚えておきたいものです。
<トラブル事例>
製造現場で伝動軸の破損に遭遇したあなたはどのように対応しますか?
予備の軸があればそのまま交換ですね。
しかし、予備が無い場合、同じものを製作して交換しますか?
破損した軸について、加工や組立に問題がないようであれば、同じ軸径で製作するのは愚かですね。
伝動軸周辺のスペースに余裕があれば、例えば、軸径を少しでも大きくすべきですね。
仮に軸径が2倍にできればねじり応力の最大値は(1/8)になるのですから。
当事務所では人間行動に起因する事故・品質トラブルの未然防止をお手伝いします。また、ものづくりの現場の皆様の声を真摯に受け止め、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。
図2.軸のねじり
ねじりの基本的な考え方を図示したものです。
(出典/参考図書:
材料力学(黒木剛司郎))
(2013.10.1)