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2014年7月既報の60)事故・トラブル未然防止の方法論(第1回 設計の役割)では、製造ラインを安定稼働させるため果たすべき設計の役割について詳述しました。そして、次のように総括しました。
・製品の品質を高めるためには製造ラインを構成する各機械装置の品質(信頼性)を高めなければならない。
・稼働し始めた製造ラインの信頼性を高める作業は容易ではない。
・信頼性は設計段階で高めておかなければならず、源流管理をきちんと行う必要がある。
源流管理は「製品・サービスを生み出す一連のプロセスにおいて、可能な限り上流のプロセスを維持向上・改善・革新することで効果的・効率的に品質保証を達成する体系的な活動」と定義(日本品質管理学会)されています。
表1は設計の流れと確認項目をまとめたものです。まず、製品企画の段階では顧客ニーズなどを基に構想設計を行い
ます。構想がまとまると製品(詳細な形状や構造に関する)設計に移ります。この段階で設計者は不具合を漏れなく予
測しなければなりません。設計者は不具合を予測するため、FMEAやFTAなどを実施し、設計に反映し、製品試作を行い
ます。試作品において評価、確認を得た後、生産の準備に入ります。これら一連の流れの中で、関連の部署では検討会
を行ったり、多くの専門家によるデザインレビューが行われます。デザインレビューは、その目的が設計レベルの向上
であることを認識して実施しなければ時間と金の浪費につながるので、注意が必要です。
このように源流管理を行い、高い品質の製品を使用者に提供できれば、設計の役割は果たせたことになり、一定の評価は得られました。設計者は、使用者の視点でみた場合、表1に挙げた項目の中では、「ユーザーの利便性、使い易さ、保守のし易さ、ヒューマンエラーの未然防止、フェイルセーフ、フェイルプルーフ、仕様の適正化、小型化、軽量化、機構の単純化、コストパフォーマンス」などに重点を置き、設計すればよかったのです。
しかし、グローバル化や高齢化が進み、使用者の特性は多様化してきました。その結果、設計者は使用者の視点の変化に対応できるように設計の視点を変化させてきました。例えば、ユーザビリティ、ユニバーサルデザイン、ユーザーや人間中心の設計、ユーザーエクスペリエンスなどが研究され設計に反映されてきたのです。
本項では、1980年代に米国で提唱されたユニバーサルデザイン(UD)とユーザーエクスペリエンス(UX)を紹介し、設計の役割について考えてみます。
ユニバーサルデザイン(UD)における七つの原則は日本の多くのメーカーも採用し、取り組んでいる考え方です。
以下はNCSAホームページより7原則の一部を原文のまま引用しています。(緑字、太字強調は筆者)
The 7 Principles of Universal Design were developed in 1997 by a working group of architects, product designers,
engineers and environmental design researchers, led by the late Ronald Mace in the North Carolina State University. The purpose of the Principles
is to guide the design of environments, products and communications. According
to the Center for Universal Design in NCSU, the Principles “may be applied
to evaluate existing designs, guide the design process and educate both
designers and consumers about the characteristics of more usable products
and environments.”
Principle1:Equitable Use
The design is useful and marketable to people with diverse abilities.
Principle2:Flexibility in Use
The design accommodates a wide range of individual preferences and abilities.
Principle3:Simple and Intuitive
Use of the design is easy to understand, regardless of the user's
experience, knowledge,
language skills, or current concentration level.
Principle4:Perceptible Information
The design communicates necessary information effectively to the
user, regardless of ambient conditions or the user's sensory abilities.
Principle5:Tolerance for Error
The design minimizes hazards and the adverse consequences of accidental or unintended
actions.
Principle6:Low Physical Effort
The design can be used efficiently and comfortably and with a minimum of fatigue.
Principle7:Size and Space for Approach and Use
Appropriate size and space is provided for approach, reach, manipulation,
and use regardless of
user's body size, posture, or mobility.
次は、ユーザーエクスペリエンス(UX)の紹介です。
2018年6月発行の日本機械学会誌は「ユーザーエクスペリエンス」を特集しています。2016年度設計工学・システム部門 部門長の細野は「特集に寄せて」の中で、「デザインの視点は、迷わず、等しく、効率よく使えることから、利用したくなる気持ちや利用した結果得られる効果に広がってきた」と述べています。
ユーザーエクスペリエンスは国際規格(ISO9241-210:Human-Centred Design for Interactive System)では
次のように定義されています。(緑字、太字強調は筆者)
2.15 User Experience
Person's perceptions and responses that result from the use or anticipated
use of a product,
system or service.
Note 1 to entry : User experience include all the users' emotions, beliefs
preferences, perceptions,
physical and psychological responses, behaviours and accomplishments that occur before,
during and after use.
Note 2 to entry : User experience is a consequence of brand image, presentation
functionality, system
performance, interactive behaviour and assistive capabilities
of the interactive system,
the user's internal and physical state resulting from prior experience, attitudes, skills and
personality. and the context of use.
Note 3 to entry : Usability, when interpreted from the perspective of
the user's personal goals, can include
the kind of perceptual and emotional aspects typically associated
with user experience.
Usability criteria can be used to assess aspects of user experience.
このように1980年代には、設計者は使用者の視点に立ち、多様化する使用者の特性に対応すべく設計に腐心していました。しかし、同じ頃、国内の大手企業の中には、品質管理に関わる不正が始まっていたことがここ数年に次々と明るみになりました。神戸製鋼所子会社(1970年代から検査結果の改ざん)、
三菱マテリアル子会社(1977年頃から品質データの改ざん)、三菱自工(1991年から法令と異なる不正な試験方法による燃費データ取得)などです。
ところで、不正が始まった1970年代は、一体どのような時代だったのでしょうか。1970年代は、実質GNP(当時の指標、その後GDP、現在GNI)が毎年約10%以上増加しており、1954年12月から始まり1973年11月まで続いたいわゆる高度経済成長の末期に当たります。1973年の中東戦争による第一次オイルショックや1978年のイラン革命による第二次オイルショックの後も実質成長率は約4%で推移し、右肩上がりの成長はバブル景気崩壊の1990年頃まで続きましたが、バブル崩壊以降、消費や雇用に悪影響を及ぼしデフレ状態になった経済は「失われた20年」とも呼ばれる景気低迷時代に入り、多くの社会的・経済的課題が解決されないまま取り残された閉塞感漂う状況にありました/あります。
そして、今も、跡を絶つことなく繰り返されている不祥事が ”品質立国日本” の信頼を揺るがしています。設計者が使用者の視点に立って腐心して設計したものに品質を造り込み使用者に提供しなければならない製造現場で不正が長期に渡り蔓延しているのです。
2012年10月発行の日本品質管理学会誌に中西清司副会長からのメッセージ「品質立国ー日本の再生」が掲載されています。メッセージの中で、近年、日本品質の安心・安全を脅かす重大事故の頻発やリコールの多発など、「品質立国ー日本」の根底を揺るがす事件・事故が続いている大きな要因としてそこで働く「人の質」の変化を挙げられています。そして、「品質立国ー日本の再生」のためには、効率を優先し過ぎたために、企業が存立するための根幹である人、品質への拘りをないがしろにしてきたこともあるので、「人財の育成」から見直さなければならないと指摘しています。
2018年2月21日には日本品質管理学会、日本科学技術連盟、日本規格協会が共催し、経済産業省と日本経済団体連合会の後援を得て、早稲田大学小野記念講堂において、”品質立国日本”の揺るぎなき地位の確立と次世代への継承を目的に緊急シンポジウムが開催されました。また、日本品質管理学会誌「品質」(Vol.48,No,2,2018)には、ルポルタージュ「緊急シンポジウム”品質立国日本”を揺るぎなくするために〜品質不祥事の再発防止を討論する〜(緊急シンポジウム実行委員会)」が10ページに渡り掲載されています。
当事務所では人間行動に起因する事故品質トラブルの未然防止をお手伝いします。また、ものづくりの現場の皆様の声を真摯に受け止め、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。 (2018.7.1)
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