スペースシャトル・チャレンジャー号の事故は1986年1月28日に発生しました。この痛ましい事故は技術者倫理を問う最も有名な事例となっています。
チャレンジャー号は発射後73秒で爆発し、6人の宇宙飛行士と高校教師クリスタ・マコーリフの命を奪いました。痛ましい人命の損失に加えて、この惨事は何百万ドル相当の装置を破壊し、そしてまたNASAの評判を劇的に落としました。打ち上げに向けて秒読みが進むなか、NASAスペースセンターとO-リングを製作したモートン・チオコール社とのテレビ会議におけるやり取りについては「ENGINEERING ETHICS CONCEPTS AND CASES(科学技術者の倫理 その考え方と事例:日本技術士会訳編)」の第1章序論に詳述されています。一部を紹介します。
「この本(ENGINEERING ETHICS CONCEPTS AND CASES)が焦点を合わせるのは技術業の実務から生じる倫理問題と専門職という争点、および、この争点に対する技術業の共同社会の対応である。大部分の技術者はチャレンジャー号の惨事を連想するような激しいドラマを伴う状況に直面することはめったにないけれども、倫理的な熟慮と意思決定を要する状況には出会うであろう。」
この事故を調査するため「スペースシャトル・チャレンジャー号事故調査大統領委員会」(通称,ロジャース委員会)が13名で構成されました。
委員会は数か月間に渡り活動し、所見を報告書(Rogers Commission report (1986年))として発表しました。
それによれば、チャレンジャー号の事故原因は右側固体燃料補助ロケット接合部を密閉するOリングの不具合であり、同所から漏出した高温ガスと最終的には炎がOリング及び隣接する外部燃料タンクに対して「ブロー・バイ(blow-by)」を起こし、構造的な破壊を生じたと結論づけています。Oリングの不具合は設計不良によるもので、事故当日の朝のような低温などによって容易に機能不全に陥り得たとしています。
また報告書は、チャレンジャー号の打ち上げを決行するに至った意志決定過程にも深刻な瑕疵があったとして強く批判しています。
委員会のメンバーで著名な理論物理学者リチャード・ファインマンはNASAの「安全文化」に批判的でした。このためスペースシャトルの信頼性に対するファインマン個人の見解を報告書に載せるように迫りました。
そして、その内容は「付録F(Feynman, Richard P. (1986). Appendix F- Personal Observations
on the reliability of the Shuttle. Rogers)」として巻末に収録されました 。
ファインマンはその報告書の末尾を次のように結んでいます。 「For a successful technology, reality must take precedence over public relations, for nature cannot be fooled.」
(2013.2.15)