30)リスクアセスメント(リスク低減措置の検討及び実施)
厚生労働省から発出されている法令、解説などを参考にしながら、リスクアセスメントのリスク低減措置の検討及び実施について紹介します。
平成17年の労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)の改正により、同法に第28条の2が追加(以下の(参考)に記載)されました。
(参考)
第28条の2 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、 又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく 命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなけ ればならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障 害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事 業者に限る。
2 厚生労働大臣は、前条第1項及び第3項に定めるもののほか、前項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図 るために指針を公表するものとする。
そして、平成18年3月10日、この第28条の2第2項の規定に基づき、危険性又は有害性等の調査等に関する指針を次のとおり公表しています。
1 名称 危険性又は有害性等の調査等に関する指針
2 趣旨 本指針は、労働安全衛生法第28条の2第1項の規定に基づく措置の基本的な考え方及び実施事項について定めたものであり、その適切かつ有効な実施を図ることにより、事業者による自主的な安全衛生活動への取組を促進することを目的とするものである。
3 内容の閲覧 内容は、厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課及び都道府県労働局労働基準部安全主務課において閲覧に供する。
4 その他 本指針は、平成18年4月1日から適用する。
このように平成18年4月から事業者には新たに「危険性又は有害性の特定、リスクの見積りおよびその結果に基づくリスク低減措置の実施」が法令上の努力義務とされています。
近年、労働災害の原因が多様化し、その把握が困難になっています。これは生産工程に導入された機械設備などが高度化され、複雑になってきたことが原因と思われます。このような状況において事業者は事業場の安全衛生水準の向上を図らなければなりません。即ち、リスクアセスメントの実施は”安全第一(Safety
first)”の企業文化を醸成し、事業場の安全衛生水準を向上させるために課せられた法令上の努力義務なのです。
リスクアセスメントについては厚生労働省から「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」を基本指針として、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」、「機械の包括的な安全基準に関する指針」が基本指針に基づく詳細指針として、それぞれ公表されています。いずれの指針においても、リスクアセスメントの実施手順等の基本は共通していて、図1に示すとおりです。
ところで、「危険性又は有害性」とは労働者に負傷又は疾病を生じさせる潜在的な根源であり、ISO、ILO等においては「ハザード(hazard)」で表現されています。図2は危険性・有害性(ハザード)とリスクの違いを簡潔に表現したものです。トラは危険性を有しているためハザードにあたります。しかし、周辺には人がいないので、トラに襲われる危険性はありません。即ち、ハザードはあるが、リスクはない状態です。この状態のまま、人が接近するとリスクは高まってきます。接近するのであれば、リスク低減措置を講ずる必要があります。
図3は図1における手順3を詳しく説明したものです。リスクを低減するための優先度の設定及びリスク低減措置の内容の検討の手順を示しています。なお、リスク低減措置の検討及び実施については本指針において詳述されています。
◆本指針の「10 リスク低減措置の検討及び実施」には次のように記載されています。
(1)事業者は、法令に定められた事項がある場合にはそれを必ず実施するとともに、次に掲げる優先順位でリスク低減措置内容を検討の上、実施するものとする。
ア 危険な作業の廃止・変更等、設計や計画の段階から労働者の就業に係る危険性又は有害性を除去又は低減する措置
イ インターロック、局所排気装置等の工学的対策
ウ マニュアルの整備等の管理的対策
エ 個人用保護具の使用
(2)(1)の検討に当たっては、リスク低減に要する負担がリスク低減による労働災害防止効果と比較して大幅に大きく、両者に著しい不均衡が発生する場合であって、措置を講ずることを求めることが著しく合理性を欠くと考えられるときを除き、可能な限り高い優先順位のリスク低減措置を実施する必要があるものとする。
(3)なお、死亡、後遺障害又は重篤な疾病をもたらすおそれのあるリスクに対して、適切なリスク低減措置の実施に時間を要する場合は、暫定的な措置を直ちに講ずるものとする。
◇(1)アの「危険性又は有害性を除去又は低減する措置」とは、危険な作業の廃止・変更、より危険性又は有害性の低い材料への代替、より安全な反応過程への変更、より安全な施工方法への変更等、設計や計画段階から危険性又は有害性を除去又は低減する措置をいうものです。
◇(1)イの「工学的対策」とは、アの措置により除去しきれなかった危険性又は有害性に対し、ガード、インターロック、安全装置、局所排気装置の設置等の措置を実施するものです。
◇(1)ウの「管理的対策」とは、ア及びイの措置により除去しきれなかった危険性又は有害性に対し、マニュアルの整備、立入禁止措置、ばく露管理、警報の運用、二人組制の採用、教育訓練、健康管理等の作業者等を管理することによる対策を実施するものです。
◇(1)エの「個人用保護具の使用」は、アからウまでの措置により除去されなかった危険性又は有害性に対して、呼吸用保護具や保護衣等の使用を義務付けるものです。また、この措置により、アからウまでの措置の代替を図ってはなりません。
◇(1)のリスク低減措置の検討に当たっては、大気汚染防止法等の公害その他一般公衆の災害を防止するための法令に反しないように配慮する必要があります。
◇(2)は合理的に実現可能な限り、より高い優先順位のリスク低減措置を実施することにより、「合理的に実現可能な程度に低い:(as low as
reasonably practicable (ALARP)」レベルにまで適切にリスクを低減するという考え方を規定したものです。低減されるリスクの効果に比較して必要な費用等が大幅に大きいなど、両者に著しい不均衡を発生する場合であっても、死亡や重篤な後遺障害をもたらす可能性が高い場合等、対策の実施に著しく合理性を欠くとはいえない場合には、措置を実施すべきものです。
◇(2)に従い、リスク低減のための対策を決定する際には、既存の行政指針、ガイドライン等に定められている対策と同等以上にすることが望ましい。また、高齢者、日本語が通じない労働者、経験の浅い労働者等、安全衛生対策上の弱者に対しても有効なレベルまでリスクが低減されるべきものです。
◇(3)は、死亡、後遺障害又は重篤な疾病をもたらすリスクに対して、(2)の考え方に基づく適切なリスク低減を実施するのに時間を要する場合に、それを放置することなく、実施可能な暫定的な措置を直ちに実施する必要があることを規定したものです。
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図1.リスクアセスメントの
基本的な実施手順
(出典:安全の指標
(中央労働災害防止協会編))
図2.ハザードとリスクの違い
(出典:リスクアセスメント担当者養成研修テキスト(日本労働安全衛生コンサルタント会)
図3.リスク低減措置の優先順位
(出典:安全の指標(中央労働災害防止協会編))