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13-2)環境問題と公害の関係
図1は公害等調整委員会及び環境基本法に記載されている内容を基に、環境問題と公害の関係について整理したものです。(赤字・緑字は筆者強調)
1)総務省ホームページの公害等調整委員会には公害について次のように記載されています。
「公害」は、環境基本法により、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる(1)大気の汚染、
(2)水質の汚濁、(3)土壌の汚染、(4)騒音、(5)振動、(6)地盤の沈下及び(7)悪臭によって、人の健康
又は生活環境に係る被害が生ずること、と定義されており、この(1)から(7)までの7種類は”典型7公害”と呼
ばれれています。なお、「相当範囲にわたる」については、ある程度の広がりがあれば、被害者が1人の場合でも
この制度の対象となります。また、被害は、既に発生しているもののほか、将来発生するおそれのあるものも含まれ
ます。公害紛争処理の対象は、これらの公害に関する紛争です。
例えば、低周波音による紛争もそれ単独では先述の公害類型には該当しませんが、騒音・振動に関係するものと考
えられる場合は公害類型に該当し、制度の対象になります。
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図1.
環境問題と公害の関係
(2019.3.9)
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2)環境基本法(1993年11月19日法律第91号)の目的及び定義は次のように規定されています。
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明
らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施
策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人
類の福祉に貢献することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「環境への負荷」とは、人の活動により環境に加えられる影響であって、環境の保全上の
支障の原因となるおそれのあるものをいう。
2 この法律において「地球環境保全」とは、人の活動による地球全体の温暖化又はオゾン層の破壊の進行、
海洋の汚染、野生生物の種の減少その他の地球の全体又はその広範な部分の環境に影響を及ぼす事態に係る
環境の保全あって、人類の福祉に貢献するとともに国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するものをいう。
3 この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ず
る相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。第二
十一条第一項第一号において同じ。)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削
によるものを除く。以下同じ。)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産
並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係る被害が生ずることをい
う。−(以下、略)−
1890年代から問題提起していた日本初の公害事件(栃木県と群馬県の渡良瀬川周辺で起きた足尾銅山鉱毒事件)は、1974年に調停が成立しました。その後も公害は跡を絶たず、1970年代まで続きます。
大きな公害病としては次のようなものが知られています。
1)イタイイタイ病(1910年代から1970年代前半)
富山県神通川流域で発生したカドミウムによる水質汚染が原因。米などを通して住民の骨に被害を及ぼした。
2)水俣病(1956年)
熊本県水俣湾で発生した有機水銀による水質などの汚染が原因。魚類の食物連鎖を通して住民に被害を及ぼした。
3)第二水俣病(新潟水俣病)(1964年)
新潟県阿賀野川流域で発生した有機水銀による水質などの汚染が原因。魚類の食物連鎖を通して住民に被害を及ぼし
た。
4)四日市ぜんそく(1960年から1972年)
三重県四日市市と南側に隣接する三重郡楠町で発生した、主に亜硫酸ガスによる大気汚染が原因。大気汚染による気
管支炎や気管支ぜんそくなどの呼吸器疾患になり、激しい喘息の発作や症状がひどくなると呼吸困難から死に至る場
合もある。
環境基本法の制定後、1997年には環境影響評価法の制定により、大規模開発事業等における環境アセスメントが制度化されました。また、1997年12月には京都会議が開催され、京都議定書の採択を契機に地球温暖化対策やリサイクル関連の法令が制定されています。これらの法制化により、汚染者負担の原則、無過失責任の確立、排出する汚染物に濃度規制だけでなく総量規制も課すことなどが示されたため公害対策を前進させようとする機運が高まりました。
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最後に、1984年12月3日早朝に発生したインドのボパールにおけるユニオンカーバイド工場の事故を紹介します。
日本技術士会訳編の「科学技術者の倫理 その考え方と事例」の 「第10章技術者と環境 10.3環境に対する態度の変化」によると、殺虫剤工場から流れ出た毒性化学物質のメチルイソシアネートは、周辺の住民3000人以上の死者と20万人以上に被害を及ぼしました。
この頃、アメリカ合衆国では1960年代に始まった環境運動により、技術は大気、土壌及び水への有害な影響のために強く批判されるようになっていたのですが、この事故を境に少なくともいくつかの産業で経営者の態度が大きく変化したとあります。
その一例が化学工業の業界団体である化学製造業協会(CAM)の構想で、1988年にCAMは公衆の化学工業に対する批判に真剣かつ建設的な方法で応えることを主たる目的とし
「責任ある注意:公衆への誓約(Responsible Care:A Public Commitment)」というプログラムを創設しました。
そして、1990年4月11日、CAMの170以上の会員企業が、その構想の指導原理をニューヨーク・タイムズとウォールストリート・ジャーナルに公表しました。環境及び従業員と公衆の健康と安全を優先し、保護する方向に大きく舵を切ったのです。
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当事務所では人間行動に起因する事故・品質トラブルの未然防止をお手伝いします。また、ものづくりの現場の皆様の声を真摯に受け止め、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。 (2019.3.9)
13-1)水銀に関する水俣条約
UNEP(国連環境計画)日本語情報サイトの2017年7月3日のUNEPニュースは「”水銀に関する水俣条約”、8月16日
に正式に発効」と報じています。 60年前、水俣の町は、原因不明の「疫病」に襲われ、この「疫病」の原因が特定され
る数年間に、数百人の命が奪われました。
UNEPニュースは、この疫病の原因が、上流にあった当時日本で最も先進的な工場の1つが、投棄していた薬品廃棄物
によるもので、湾に投棄していた水銀を含むスラッジが魚介類によって消費され、そこから沿岸地域の食物連鎖に入り、
沿岸地域の住民が摂取する主食や、タンパク質が豊富な食物に含まれることになったと説明しています。
水俣病はいわゆる高度成長期と呼ばれる1950年代後半から1970年代にかけて、日本国内で発生した公害の内、特に被
害の大きい「四大公害病」の一つです。水俣条約は、人々の健康と環境を守るためのグローバルな条約であり、二度と水
俣病のような被害を繰り返さないようにするためのものです。
以下に、水俣条約に関係する情報の一部を紹介します。詳細は各省庁のホームページをご覧下さい。
外務省
水銀に関する水俣条約(平成29年8月16日)
平成25年10月10日 熊本で採択・署名
平成27年5月22日 国会承認
平成28年2月2日 受諾書の寄託
平成29年6月23日 公布及び告示(条約第18 号及び外務省告示第220号)
平成29年8月16日 効力発生 テキスト(和文(PDF)/英文(PDF)) 説明書(PDF)概要(PDF)
経済産業省
平成29年5月18日付けで、「水銀に関する水俣条約」の締約国数が我が国を含めて50か国に達し、規定の発効要件
が満たされたため、本条約は本年8月16日に発効することになりました。日本として、同条約の実施を確保し,その他
の必要な措置を講ずるための国内法である「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」(以下「水銀汚染防止法」
という。)の制定、及び関係法令の改正が行われたところですが、水俣条約の発効を受け,一部を除き8月16日に施行
されます。
環境省
平成25(2013)年10月に熊本市・水俣市で開催された外交会議において「水銀に関する水俣条約」(Minamata
Convention on Mercury)が採択されました。この条約は,水銀及び水銀化合物の人為的排出から人の健康及び環境
を保護することを目的としており、採掘から流通、使用、廃棄に至る水銀のライフサイクルにわたる適正な管理と
排出の削減を定めるものです。
我が国では、条約締結に必要な法令整備を進め、平成28(2016)年2月2日に条約を締結しています。また外交
会議において途上国支援や水俣発の情報発信・交流に関する「MOYAIイニシアティブ」を表明しており、この一環
として、水銀マイナスプログラム(MINAS:MOYAI Initiative for Networking, Assessment and
Strengthening)
による途上国の水銀対策を,アメリカ環境保護庁や国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Program)、
独立行政法人国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)等と密接に連携しつつ進めています。
水銀に関する水俣条約は、平成29(2017)年8月16日に発効します。
<参考情報>
「公害」とは、環境基本法(1993年)により次のように定義されています。
『環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の
汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱
物の掘採のための土地の掘削によるものを除く)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な
関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む)に係る被害が生ずること』
をいう。
特に被害の大きい公害病として、次の四つを挙げておきます。
1)イタイイタイ病(1910年代から1970年代前半)
富山県神通川流域で発生したカドミウムによる水質汚染が原因。米などを通して住民の骨に被害を及ぼした。
2)水俣病(1956年)
熊本県水俣湾で発生した有機水銀による水質などの汚染が原因。魚類の食物連鎖を通して住民に被害を及ぼした。
3)第二水俣病(新潟水俣病)(1964年)
新潟県阿賀野川流域で発生した有機水銀による水質などの汚染が原因。魚類の食物連鎖を通して住民に被害を及ぼし
た。
4)四日市ぜんそく(1960年から1972年)
三重県四日市市と南側に隣接する三重郡楠町で発生した、主に亜硫酸ガスによる大気汚染が原因。大気汚染による気
管支炎や気管支ぜんそくなどの呼吸器疾患になり、激しい喘息の発作や症状がひどくなると呼吸困難から死に至る場
合もある。
当事務所では人間行動に起因する事故・品質トラブルの未然防止をお手伝いします。また、ものづくりの現場の皆様の声を真摯に受け止め、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。 (2017.8.29)
13)四大公害病
日本における、いわゆる高度経済成長期は1954年12月から1973年11月までの間を指します。その間、GNP(当時の指標、その後GDP、現在GNI)は毎年約10%以上増加しました。しかし、1973年、中東戦争による第一次オイルショックの影響を受け、実質GNPの成長率は鈍化しました。
その後、1978年、イラン革命による第二次オイルショックに見舞われましたが、実質成長率は約4%で右肩上がりに推移しました。このような経済の安定成長はバブル景気崩壊の1990年頃まで続きました。この一連の経済成長は東洋の奇跡と呼ばれています。
東京タワーは1957年6月に着工し、1958年12月に完成しました。東海道新幹線は1959年4月に着工し、1964年10月1日に営業運転を開始しました。その9日後の10月10日には東京オリンピックが開会しました。1970年には大阪で万国博覧会が開催されました。このように、高度経済成長期には国家規模のビッグプロジェクトが次々と遂行されました。
このような高度経済成長期の1950年代後半から1970年代にかけて、日本国内では、公害により住民へ大きな被害が発生しました。国家規模のビッグプロジェクトが次々と遂行されていく中、多くの地域で公害が発生したのです。この内、被害の大きいものを「四大公害病」とよんでいます。なお、日本の公害の原点は、19世紀後半の明治時代初期から渡良瀬川周辺で起きた足尾銅山鉱毒事件と言われています。
「公害」とは、環境基本法(1993年)により次のように定義されています。
『環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の
汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱
物の掘採のための土地の掘削によるものを除く)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な
関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む)に係る被害が生ずること』
をいう。
1)イタイイタイ病(1910年代から1970年代前半)
富山県神通川流域で発生したカドミウムによる水質汚染が原因。米などを通して住民の骨に被害を及ぼした。
2)水俣病(1956年)
熊本県水俣湾で発生した有機水銀による水質などの汚染が原因。魚類の食物連鎖を通して住民に被害を及ぼした。
3)第二水俣病(新潟水俣病)(1964年)
新潟県阿賀野川流域で発生した有機水銀による水質などの汚染が原因。魚類の食物連鎖を通して住民に被害を及ぼし
た。
4)四日市ぜんそく(1960年から1972年)
三重県四日市市と南側に隣接する三重郡楠町で発生した、主に亜硫酸ガスによる大気汚染が原因。大気汚染による気
管支炎や気管支ぜんそくなどの呼吸器疾患になり、激しい喘息の発作や症状がひどくなると呼吸困難から死に至る場
合もある。
昨年、2013年12月17日、上述の四大公害病の一つ「イタイイタイ病(1910年代から1970年代前半)」で、被害者らでつくる「神通川流域カドミウム被害団体連絡協議会」(被団協)と三井金属などの原因企業が富山市で全面解決を確認する合意書に調印しました。以下は、翌18日の徳島新聞の報道記事から抜粋したものです。
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イタイイタイ病の前段階の症状で、国の基準では公害病患者と認められないカドミウムによる腎臓障害を抱えている人に、三井金属が健康管理支援制度を創設し、一人60万円の一時金を支払う。これとは別に被団協に解決金を支払い「イタイイタイ病で甚大な被害をもたらした」として謝罪。被害者側が受け入れ、双方は「問題が全面的に解決した」と確認した。
国が1968年に全国で初めて公害病と認定してから45年、国が推定する最初の患者発生から100年余りで、カドミウムによる腎臓障害への補償がが最後の課題だった。
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当事務所では人間行動に起因する事故・品質トラブルの未然防止をお手伝いします。また、ものづくりの現場の皆様の声を真摯に受け止め、ものづくりの現場における労働安全の構築と品質の作り込みをサポートします。 (2014.1.11)